「次は『材質編』、ミキ、ベアリングの材質は何やろ?」

「そんなの簡単じゃんっ、鉄でしょっ?スプーンとかフォークとかも錆びたりしない鉄だったよねっ」

「鉄か!ちょっと違うなぁ・・・、リールのベアリングはステンレス鋼、但し、食器用のじゃなくてもっと硬い、熱処理できるステンレスが正解」

「そうそう、ステンレスって言うんだっけっ」

「まぁ、そのステンレスやな、ダイワのCRBBの紹介にもあるけど、食器に使うSUS304じゃなくてSUS440Cっていうのが一般的な熱処理可能なステンレスで、それ以外にもベアリングメーカー独自のステンレス鋼っていうのもある、この錆びるor錆びないってのは、ステンレスの組成自体の要因やねん」

「難しそうだねっ」

「まず、鋼を硬くする熱処理から説明するけど、鋼って温度を上げると赤くなるやんか、その時の組成っていうのが『オーステナイト』っていう『ガンマ固溶体』が組成で、これを空気中で放置プレイすると『フェライト』っていう『アルファ固溶体』の組成と、鋼に含まれてる炭素量によって生じる『炭化鉄』、『セメンタイト』ともいうけど、これが『フェライト』に混じった『パーライト』って組成になる」

「・・・」

「放置プレイじゃなくて急速に冷やす、焼き入れすると『マルテンサイト』っていう『過飽和アルファ固溶体』の組成になる、『過飽和』っていうのは『セメンタイト』になるべき炭素が『アルファ固溶体』中に飽和量以上に含まてるという意味で、この『マルテンサイト』の組成にならないとベアリングに必要な要求性能を達成できない、あと、補足として、炭素量が多いと焼き入れした場合のかたさは硬くなるけどもろくなる、1%くらいがベアリングにはちょうどいいみたいやな」

「たった1%なのっ?」

「鉄と炭素の関係って面白いねんぞ、わずかの炭素量の違いで性格が変わるからな、で、SUS304は常温でも『オーステナイト』組成で、18-8ステンレスっていう別の言い方もあって、18%のクロムと8%のニッケルが含まれている、これだけのクロムとニッケルが含まれているから化学的にも安定してる、ニッケルが多いので常温で『オーステナイト』の組成になるけど、『マルテンサイト』にはならないから焼きが入らない、スプーンなんかをガスコンロで真っ赤に炙って水で冷やしても硬くならん」

「・・・」

「それに対してSUS440Cはクロムの含有率は同じくらいやけど、ニッケルは不純物扱いで含まれていないに等しいし、炭素量も多いから、急冷したら『マルテンサイト』組成になって硬くなる、けど、炭素量が多いのと、ニッケルが含まれていないのが逆に化学的安定性がなくなってしまい、SUS304より錆びやすくなる、口で説明するとこんな感じかなぁ」

「全然、意味がわかんないよっ」

「言うてる本人も口では難しいって思ってるから、別に無理して理解する必要はない、釣りがテーマの個人のサイトやからな(笑)、ダイワやシマノの言う『硬いステンレスは錆びやすい』の補足説明として、要するに『熱処理可能なステンレスじゃないとベアリングには使えない、だけど、熱処理可能なステンレスは化学的に不安定だから錆びやすい』っていう表現かな、ただ、一部の軽荷重・低速回転っていう条件ならSUS304の特殊環境用のベアリングは存在する、もちろんリール用じゃないけどな」

「ふ〜んっ、それじゃぁ、そのCRBBとか『錆びないベアリング』って、どんなのかなっ?」

「おっ、ええ質問やね、シマノのA-RBやダイワのCRBBが有名やけど、それ以外にもABUもそうやし、台湾のTICAとかOkuma、コリアのシルスターなんかも最近は同じ様な防錆ベアリングをリールに組み込んでるなぁ、それでな、色々調べて見たんやけど、国内のベアリングメーカーでそれに該当する表面処理を施した腐食環境用ベアリングを商品化しているメーカーはない」

「じゃぁ、釣り具メーカーのオリジナルってことなのっ?」

「いや、正直言って確証がないから何とも言えん、腐食環境用ベアリングって玉も軌道輪も全部がセラミックでできたヤツとかそんなんやわ、もちろん釣り具メーカーのサイトを閲覧しても『表面改質』とかって表現ばっかりや」

「そうなんだっ、Gamくんでもわかんないのか・・・」

「いや、それがシルスターだけは違うんや、シルスターのACBって『NICO-BFプロセス』って処理をしているらしいわ、どんな処理なのかはリンク開いて見てくれ!って言っても英語やからウチも理解できんので誰か教えてくれ!

NICO-BFプロセス
これがNICO-BFプロセスやねんけど・・・

ただ、見る限りでは『特殊窒化処理』なのかなって気がする、一番表面の黒い色は『酸化鉄』で、その下に『窒化鉄』の層があって、その下の拡散層が『セメンタイト』〜『マルテンサイト』かな?ビッカースかたさが700〜750くらい、それに対して熱処理したSUS440CはロックウェルのCスケールってかたさで58以上、これはビッカースかたさでは650〜660に相当するからちょっと硬い、平均表面あらさは〜0.1ミクロンらしいから、スペック的にはいいのと違うか?他のメーカーのベアリングも似たような『特殊窒化処理』の様な気がする、要するに、『表面を硬くて化学的に安定した鉄の化合物に置き換えて防錆性と耐摩耗性を両立させる』って表現でいいと思う」

「う〜んっ、ミキは全然わかんないけどっ、Gamくんも今のお仕事ってそんなの関係ないのに、どうして解説できたりするのっ?」

「これがウチの言う『変態コンセプト』のもう一つの姿やんけ(笑)、それはいいとして、勤めに出てからは金属材料とかベアリングとかは一切関係ない仕事ばっかりや、ただ、ガキの頃から工場長に徹底的に仕込まれてるから『機械常識』っていうのが染みついてるんかな、だから、ある程度の資料があればあとは『機械常識』に従ってアタマの中で展開すればいい、時間はかかるけど、本物の天才みたいに全てを記憶する必要はない」

「野性の勘じゃなくって『機械常識』なんだっ、でも、Gamくんって『一般常識』は全然ないよねっ(笑)」

「ぎゃはははは、その通りや!あとは『機械常識』を超えられへんのが今の悩み・・・、じゃぁ話し戻すぞ、あと、材質編ではセラミックの話をしようか」

「ZPI"のSiC-BBとかのことだよねっ」

「ファイナルダムンでも『BG7001HS改造編』や『飛ばせ、鉄拳!ベアリング編』で取り上げたことがある、BG7001HSの時には『本来、摩擦には材質のかたさは影響しない』とか述べてたけど、あれは間違ってた、訂正する」

「え〜っ、そんなのダメじゃんっ!」

「ごめんなさい・・・、で、『かたさが柔らかいとラジアル荷重が掛かったときに軌道輪や玉の変形量が多くなる、すると本来は点接触するはずの軌道輪と玉が面接触してしまい転がり抵抗になる、そうなると摩擦が増加して回転性能が劣化する』、と言えばいいのかな、この場合は弾性変形という変形で、その量はわずかやねんけど、ベアリングの精度からするとそれなりに影響があるのかな、って感じやろか」

「また難しいよっ、Gamくん、弾性変形って何っ?」

「竿を考えてくれ、力を掛けたら曲がるけど、その力を取り除いたら真っ直ぐに戻るやんか、その現象のことやな、あと、『チタン合金編』で述べてる縦弾性係数も考慮してほしい、変形という点では縦弾性係数が高ければ変形量そのものは少ないけど、かたさが硬くないと永久変形、元に戻らない変形をしてしまう、すると玉が転がりにくくなって摩擦が大きくなる、そうなると余計に摩耗は進行してしまう、だからSUS304もSUS440Cも縦弾性係数はほとんど変わらないけど、変形と摩耗という2つの意味でかたさは硬い方がいい」

「よかった、ミキも、それだと理解できるねっ」

「そうか、あと、セラミックの軽さによる遠心力の減少は正解、回転体は軽い方がいいに決まってる、だから遠心力と弾性変形を含めて考えると、全部セラミックのベアリングが今のところ理想、ついでに保持器もステンレスじゃなくてテフロン樹脂になってるから軽くて摩擦係数も低そうやけど、ZPI"はステンレスのような気がする、さすがにあんなの分解する気にならんからな、で、全部セラミックのベアリングは無給油らしいから、オイルの粘性抵抗すら排除できるやんか、その代わり日本製やと値段は目ン玉飛び出るくらい高いぞ!」

「そんなにしちゃうんだっ?」

「見積もり取ったんやけど、旧ABU1台分、要するに2コやけど、なんぼやと思う?」

「え〜っとねっ、1コ5千円くらいで、1万円かなっ?」

「ミキ、それで済むんやったらウチは速攻で買う、その2倍ちょっとするぞ、結構コンディションのいい旧ABUが買える値段やわ」

「え〜っ!そんなにしちゃうのっ!!じゃぁ、さすがのGamくんでも無理かなって感じだねっ」

「キャバ行かんかったら仕入れてたかも知れん、アメリカのサイトやと1コ$50ってのは見つけたから直輸入するしかないんかなぁ・・・」

「そんな変なトコ行くからじゃんっ(笑)、でねっ、実験ではA-RBとSiC-BBで飛距離の差はほとんどなかったよねっ、わずかにA-RBがよかったみたいだけどっ」

「それがわからんのや、それとも、使い倒した5001C改やからあかんのかな?今度はおニューのスピードマスターでやってみようかなと考えてる、だから、ウチ的にはあの件はまだケリがついてないんや、あと、セラミックの材質やけどSiC、『炭化珪素』だけじゃなくて『窒化珪素』とか『酸化ジルコニウム』とかいろいろあるけど、どれもステンレスより硬いからまぁいいわ、って感じやわ」

「セラミックはあまり詳しくないのかなっ」

「そうやねん、めんどくさいから京セラのPDFでも見てくれ!、で、次行こうか、ベアリングチューンの王道、『シールド編』やぞ」

「はははっ、やっぱ、いい加減〜っ♪」

(2007/2/26更新)

一応、予告編にもどるけどっ、本当は閉じてねっ