チタン合金という言葉からは何を連想する? レーシングマシンやジェット戦闘機、はたまたロケットに多用される硬くて軽量・高強度・高剛性かつ錆びない金属、という具合が一般的だろう。まさにハイテク宇宙素材である。釣具でもリールやロッドのパーツなど高級品に使われている。チタンを使えばよりいっそうグレードアップした感じだ。しかしチタンは優れた機械的特性を持つものの、その辺に転がっている鉄よりも劣る面がある。高いとか加工しにくいというのは逆に付加価値を高める事ができるが、もっと根本的な事について説明する。機械系のややこしい話が苦手な方は、ブラウザの戻るボタンをクリックしても構わない。
では、引張強さや比重等の機械的特性を見ていこう。フジがチタンガイドで紹介している数字をちょっと拝借。さらに機械工学便覧からも。
FUJIチタン |
純チタン |
FUJIステンレス
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一般ステンレス |
しんちゅう |
軟鋼 |
超々ジュラルミン |
純アルミ |
炭素繊維 |
|
硬度 |
412 |
100 |
350 |
185 |
78 |
||||
比重 |
5.03 |
4.51 |
7.93 |
7.93 |
8.8 |
7.9 |
2.7 |
2.7 |
1.7
|
耐力 |
148 |
22 |
61 |
21 |
10 |
50 |
|||
引張強さ |
150.5 |
35〜22 |
88.0 |
53.0 |
40.0 |
40 |
58 |
8 |
|
耐食性 |
三重丸 |
三重丸 |
◎ |
○ |
X |
||||
縦弾性係数 |
- |
11.8 |
- |
- |
10 |
20 |
6.3 |
20〜 |
*注 黄色がフジの公表値、白は管理人が追加
単位・・・
硬度はブリネルかたさ(HB)と判断した。ビッカースかたさ(HV)でも数字はあまり変わらない。(→すいません、ビッカースかたさが正解でした、訂正します)比重はg/cm3、耐力・引張強さはkgf/mm2、縦弾性係数はx1000kgf/mm2。
材質・・・一般ステンレスはJISのSUS304と思う。食器に使われているアレだ。しんちゅうは60%銅・残り亜鉛の6:4真鍮と思われ、軟鋼はその辺に転がっている普通の鉄、超々ジュラルミンは一般的な7075ではなく零戦の主桁材ESDを、純金属は純度により強度に違いが出るので純アルミは普通純度だ。ちなみにFUJIチタンはβチタンか?。FUJIステンレスは不明。FUJIチタンも組成が分からないので何とも言えない。機械工学便覧から引っ張ってきた数字は資料によって多少違う。おいおい追加していくが、変わっていくことあり。
注目は追加した縦弾性係数だ。強さを示す数字の一種なのだが、変形に対する抵抗性とでも言うのか、この数字が大きいほど剛性が高い。ちなみに引張強さは単位面積あたりの強さで、これはゴムみたいにどれだけ変形しても構わないからとにかく1mm2あたりこの数字の力を加えて引張ればれば破壊する。耐力は、材料に力を加えて発生した伸びが、その力を取り除くと元の長さに戻る限界の力。バネを想像してもらいたいが、あまり強く引張りすぎると伸びて戻らなくなる、あれだ(これをひずみという)。厳密には0.2%の永久ひずみを生じる力を耐力という。ややこしくなったが、縦弾性係数はこの耐力の中での現象と仮定してもらい、計算的にはある長さの材料を、倍の長さ(ひずみ100%)になるまで引張った時の力なのだ。引張強さよりも数字が大きくなってもおかしい訳ではない。
余計なことをクドクドと書き連ねたが、縦弾性係数が大きいほど剛性が高い。ここが今回のキーポイント。
チタンは鉄の半分とは言わないがそれに近い数字でしかないということ。FUJIチタンは合金だから弾性係数も高いんじゃないの?という意見もあろうが、残念なことに金属材料の場合、引張強さは大幅に向上することができても弾性係数はそんなには向上しないのだ。実際あまり高くなってなさそうな感じがする。
では、論より証拠を。お手持ちの竿に、ニューコンセプトガイドのLNSG12とT-LNSG12があれば、ブランクを親指以外で握りつつ、ガイドリングを親指でゆっくりと力を掛けて曲がり具合を比較すればすぐに分かる。(どうなろうとも一切の責任は持たないから。やるならあくまでも耐力以下でね。それと普通の竿は「パキッ」音がしてコーティングが浮くはず。ビルダーの管理人は柔らかめのU-40を愛用しているから大丈夫だけど)。T-LNSGが意外と曲がってくれることに驚くだろう。それがチタンの剛性の無さである。
次に、昔のSVSG12とT-SVSG12でフレームの板厚寸法を測定したら、SVSG12でおおよそ0.8mmなのに対してT-SVSG12は1.0mm程度だった(LNSGは曲線が多くて測定しにくいのでパス。見た目は同じように見える)。昔のガイドは、チタンの剛性の無さに対しては肉厚を厚くして剛性を稼ぐという、ごくまともな設計思考なのだ。そうすれば当然のこと重量は増加する。だからまともに設計したのではその比重差(5.0に対して7.9)ほどの軽量化はできないものである。板厚を増したT-SVSGでもSVSGよりも曲がる感じだ。(実際の重量差についてはガイドの重量が測定できないので実施しない)
ニューコンセプトガイドはその軽量さがウリなので、わざわざ重くする様なことはしないし負荷もそんなにかかる訳ではない、という発想なのだと思う。一方、スーパーオーシャンガイド・MNSGにチタンが採用されないのも、この剛性の無さがネックだと想像する。自慢のハイパワーGTロッドも実はガイドが・・・、なんてことにGTアングラーが耐えれるだろうか? 恐らく否であろう。(T-MNSGってシーバス用なら売れると思う)
我々に最も関係するライギョ竿の一部にもチタンフレームを採用しているのがある。今までの話を考えてみてどう思いますか?少なくとも管理人はライギョ竿にはチタンフレームは採用しない。T-LCSGぐらいゴツければ別だが、用途が違う。軽量化といっても、あれだけパワーがあればブランクの調子も損ねないし。許容範囲が広すぎる、いい加減でコダワリがないだけと言えばそれまでだが・・・
ガイドなんかは完全剛体なんて望めないのでまだいい。曲がっても戻るのだから。リールのシャフトに採用されているチタン、こっちの方が問題を大きくする可能性がある。先にも述べた、ごくまともな設計をしないと魚を掛けている最中はシャフトが曲がってますよ、と言うことにもなりかねない。まあ、現在のMade in Japanリールは大丈夫だと思いますけど。
次は、ロッドの繊維として採用されているチタンだ。たまに補強か何かで使っている竿を見かける。特性向上等のそれなりの理由はあると思うが、果たして明確な結論は得られていない。縦弾性係数と比重を炭素繊維と比較すれは、「何これ?」っていう感じだから。炭素繊維の縦弾性係数は弾性率とも呼ばれ、例の「何トンカーボン」のことだ。重いわ弾性率は低いわでなぜこんなのを使うのだ。それじゃあボロン・アシストみたいな感じ?それともちょっと違うような気がする。じゃあ感度?あいにく振動減衰能についてはこれと言った資料を持ち合わせていない。ネット上でも具体的には判明しなかった。今後の課題だ。
あともう一つ、硬いという表現だが、曲げに対する抵抗性という意味での硬い、であれば間違い。表面硬度が硬いのであれば、とりあえず正解。でも焼き入れした鋼よりは硬度は低いからすごく硬いとはとても表現しかねる。
今のところの結論は、意味もなくチタン、チタンと騒ぎ立てるのはやめましょうということだ。適材適所に使ってこそ意味がある。
たぶん追加・訂正する事があると思いつつ・・・(2006/3/30 硬度のFuji公表値はビッカースかたさだったので修正)
フジのチタンガイドって神戸製鋼が一枚噛んでいることが判明、そしてついに組成までもが明らかになったのである。ソースのPDFはこちらを見てほしい。組成が判明したのなら、コベルコのサイトで確認すればいいよね。フジの公表と隔たりがあるのかを。で、PDFによると、KS15-3-3-3(Ti-15V-3Cr-3Sn-3Al)っていう合金らしい。この、カッコ内の記号は、チタン合金に含まれる他の元素のことで、これだとバナジウムが15%、クロムと錫、アルミニウムがそれぞれ3%含まれているってコト。それでは、コベルコから無断で拝借してきた表をアップしてみる。
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*1 ELI : Extra low interstitial *2 ST : Solution treatment(溶体化処理) *3 STA : Solution treatment & aging(溶体化時効処理) |
引張強度 : ことわり無きものは焼鈍状態の値 |
うん、管理人の推測どおり、βチタンだったよね。まぁ、ここまでの高張力チタン合金はβチタンでしかあり得ないから、それをとやかく言う必要もない。ちゃんと代表的用途には「釣り具」ってのもあるし、管理人的には謎が解けてめっちゃご機嫌なのだ。このαとかβとか、溶体化やら時効処理はもう説明しない。釣りには一切関係ないし、ベアリング編で懲りたから。あとは引張強さだけど、フジの公表値が150.5kgf/mm2でコベルコが1400MPaになっている。kgf/mm2とMPaの換算は、重力加速度の数値9.80665、およそ10を係数として掛けてやればいい。ちょっと違うけど、フジの値はMAXだろうし、コベルコの値は代表値だから鬼のクビを取ったみたいに「フジのウソつき!」と叫ぶ必要はない。でも、こっちのPDFにはKS15-3-3-3合金の引張強さは1001minって記述があって、最低でも1001MPaがメーカー保障値って感じだとは思うけど、ちょっと幅が広いよねぇ・・・
チタンで述べるべき事項としては、この表を見ればわかると思うけど、純チタンの1種とβチタンでは強度にとんでもない差が出てくることかな。何が言いたい?それこそ「チタン、チタンと騒ぎ立てるのはやめよう」ってことだ。高強度をイメージするチタンだけど、JIS1種あたりだとその辺に転がってる鉄とたいして変わらなかったりする。一般的には「チタン採用!」とか言うだけでもイメージアップになると思うのだ。でも、本気で強度が欲しくてチタンを採用するのなら、フジみたいに高張力チタン合金が必要。だけど、実際にどんな組成のチタン合金を使ってるかを謳ってる社外品ってあったっけ?管理人は世捨て人だから知らない。リールのハンドルで言うと、ハネクラのチタンハンドルは「最高級チタン」、サーペントバイトは「チタニウム合金製」だし、よくわかんないよね・・・。まぁ、魚釣りレベルだとそこまで気にしなくてもいいのかな?
これ以外だと、ソースのPDFには『釣竿につける部品についても,「より軽く」のニーズに加え「強くて,かつたわみやすい」,「さびないもの」との材料要求からチタンが注目されてきた。』なんて記述があるのだが、この「たわみやすい」ってのに注目したい。やっぱ、これって剛性が低いってコトやぞ。これは上でも述べてるし、フジの管釣り用ガイド・T-ATSGなんてその最たる例、ワザと変形させてるから。それを思うとサーペントライジングの「軽量/高剛性のチタンフ レームダブルフットS.I.C ガイド(T-NSG)」って表現は間違えてる、ステンレスのNSGの方がしっかりしてるよ、強度は弱いけど。フレームの高いT-SVSGよりT-NSGの方が剛性はあるけど、そういう意味合いには解釈できないし、コベルコもわざわざβチタンを低ヤング率って記載してるくらいだから。(ヤング率って上で述べてる縦弾性係数のことだね)
さぁ、ライギョ界のカリスマ・新家さんの商品にまでイチャもんをつけ始めた管理人には未来はあるのか?でも、技術的にはウチが正しいから、全世界のライギョマンを敵に回してもいいぞ(笑)
( 2007/5/6更新)