「Gamくん、これって、そろそろ片付けた方がいいんじゃないっ?」
「なにを片付けるねん・・・」
「これっ、お正月の飾りだよ〜っ」
今って、何日だと思ってるのっ?
うっ・・・
「なんや、これか!」
「もうっ、 お正月もとっくに過ぎてるじゃんっ」
「ええやんけ、一年中正月気分でめでたいやないか、気にするなって」
「Gamくん、すぐそうなんだねっ・・・、それでなくてもお片付けする人じゃないのにっ」
「ええねんって、片付けなんかメンドくさいことやってられへんわ」
「じゃぁ、男の人ってみんなそうなのっ?」
「さぁ?几帳面な人もおるからそれは人次第、ウチは不精者やからしゃあないわ、まぁ、ウチの性格やろね」
「でもねっ、Gamくんって、サカナ釣りのコトだったら、すっごく面倒なコトでも平気でやっちゃうのにねっ」
「うーん・・・、ロッドビルドとかはメンドくさいぞ、前にも言うたやん、『竿は自分で作るしかない』って」
「でもっ、確か、ガイドだっけ、作ってたじゃんっ」
「ああ、『試作ベリリウム銅フレームSiCガイド』やな、バンブーロッドには今のフジのガイドってあんまり似合わへんと思うねん、せやから試しで作ってみた」
どうやって作ったのっ?
ロウ付けやなぁ
「へ〜っ、こんなのまで作っちゃうんだね〜っ」
「こんなん、まだ試作段階やから適当に作っただけやぞ、それでもベリ銅ってガイドフレームの材質として考えると、ウチ的には結構いい感じやねんぞ」
「そうなんだっ、・・・でもねっ、銅ってそんなに軽くないんじゃないのっ、ほらっ、今のガイドって『チタン合金』もあるんだよねっ?」
「それはいつもの言い方やけど用途によって要求性能って変わるやん、誰もトラウトロッドにベリ銅を使うとは言うてないぞ」
「じゃぁ、ライギョ竿用なんだねっ」
「いや、ライギョ竿用としてもかなりのオーバースペック、そこまでの必要がないと思う」
「それじゃぁ、どんな感じで考えてるのっ?」
「うーん・・・、ベリ銅のおさらいするけど、引張強さは『フジチタン』と遜色ない、いや、最小値で比べると『フジチタン』よりも強い、次は比重やけど、これは『フジステンレス』よりもちょっと重いくらいやねん、で、ヤング率は『フジチタン』よりは高めやけど『フジステンレス』に比べると低い」
「『やんぐりつ』・・・?」
「ファイナルダムンでよく出てくる縦弾性係数でいいよ、口で言うときはヤング率の方が言いやすいねん、要するに『フジチタン』よりは弾性変形しにくい、ってことやな」
「え〜っと・・・、それじゃぁ、軽いのがいい場合は『フジチタン』で、強いのがいい場合は『ベリリウム銅』でしょっ、曲がったらダメな場合は『フジステンレス』、って感じでいいのかなっ?」
「いや、実はな、ベリ銅が圧倒的に優れてるポイントがあるねん」
「へ〜っ」
「熱伝導率はベリ銅が圧倒的にいい、というかその逆、これはチタンとステンが悪すぎるくらいやねん、機械加工的に言うたらどっちも難削材、削りにくい材質やねんけど、その要因の一つとして熱伝導率が悪いと温度が上がって削りにくくなるねん」
「でもねっ、ガイドのフレームなんでしょっ、温度って関係あるのっ?」
「せやからライギョ竿やと必要ないやん、温度上昇が気になる、って考えると思いっきりサカナが突っ走る釣り、ヘビーソルト系やな、いくらSiCリングの熱伝導率がいいとしてもフレームで熱が逃げへんかったら、リング自体も温度上がるやん」
「そんなにすごいんだっ」
「ウチはそんな釣りはせえへんから知らんけど、そんな感じらしいわ」
「じゃぁ、海で使うんだったら錆びたりしないのっ?チタンもステンレスも錆びないんでしょっ?」
「そうやなぁ・・・、材料メーカーのコメントとして『静止海水-年0.05mm以下』ってのがある、せやから耐食性もいいと思う、ただ、他の2つと違って表面は変色すると思うわ、銅やもん」
「でもっ、色が変わっても問題ないんだねっ」
「見た目気にする人には向かんと思うけど、色でも塗ったらいいのかな?少なくともフジの『ハードブラスフレーム』より耐食性はいいはずやし、強度は比較対象にならん」
「そんなのもあるんだっ?」
「最近は減ったけど、SiCガイドの初期の頃のラインナップとしては船釣り用の強力ガイドはステンじゃなくって『ハードブラス』やったぞ、で、ブラス、要するに黄銅やけど、これは海水の耐食性は悪いねん、含まれてる亜鉛が海水と反応して溶け出す、『脱亜鉛腐食』ってのが発生する」
「でもっ、どうして黄銅なのっ?」
「それこそステンの熱伝導率の悪さをフジが考慮したのと違うか?でも、新型の船釣り用ガイドのフレームはほとんどステンに変わってるからなぁ・・・」
「それじゃぁ、『用途によっては』って但し書きがついちゃうけど『ベリリウム銅』はいい材質、ってのはわかったんだけど、今回のバンブーロッド、だっけ、Gamくんが作ったガイドを付けちゃうのっ?」
「目下検討中やけどたぶんそうなると思うわ、できたらソルト系の竿を組んで実戦形式でテストするのがいいと思うし、ロウ付けじゃなくて一体成形にせんといかんけど、ウチは年に1回しか遠征せえへんやんか、だから中途半端で終わりそうな気がする」
「ちょっともったいない、って感じみたいだねっ」
「この『ベリ銅ガイド』の件は作成工程をアップするときとか『ガイドについてのエトセトラ・フレーム編』で数値を交えて解説しようと思うわ」
「あのねっ、『ベリリウム銅』以外にも材料を仕入れたんだよねっ」
「うん、こんなんとか・・・」
これはそんなに大きくないよねっ
直径20mmやったぞ、金属フェルールにはええ感じ?
「これは色が黄色いから、黄銅でいいのかなっ?」
「・・・それが違うねんなぁ、『アルミニウム青銅』が正解、JISの記号では『C6191』ってヤツ、釣り具やとダイワ精工が一部のリールのギヤで採用してる、ってのは最近になってコメント残してるよね、『特殊合金』とか言うのも」
「う〜んっ・・・、でもっ、Gamくん的には・・・」
「ベリ銅の方がめっちゃ特殊!」
「じゃぁ、釣り具で『ベリリウム銅』を使ってる、ってのはないんだっ」
「たぶんそんな感じやわ、めっちゃコスト掛かるからフツーは使わんと思う、少なくとも釣り具の場合やと、強度を要求される銅合金は『りん青銅』か『C6191』でいいと思うぞ」
「それじゃぁ、Gamくんはどうして『ベリリウム銅』みたいな材質を使っちゃうのっ?」
「そうやな、『プライベーターがメーカーに勝つのは男のロマン!』ってコメントしとく」
「わかんないっ・・・」
「単車とかクルマのレースの世界やと、そんなんあり得んのかな?せやけど、釣りの世界やったら可能やと思うぞ、もちろんベリ銅が『最強の銅合金』ってのがポイントやけど」
「ふ〜んっ・・・、それでねっ、見た目だけじゃぁ、『アルミニウム青銅』なのか黄銅なのかって、よくわかんないねっ」
「一応『ABB』って書いてるやん、JISの旧呼称やねんけど『Alminium Bronze Bar』、『アルミニウム青銅棒』の略やわ、少なくとも『ABBA』じゃないなぁ」
「えっ、それってなんのコトっ?・・・」
「いや、ホンマの意味はごくわずかの人間しか知らんはずやから気にせんでいい、あと、金属材料で言うと『ニチノール』とか『超合金エックス』やら仕入れてるけど、それはまたの機会にするよ」
「でも、その『超合金エックス』ってホントにそんな材質ってあるのっ?」
「そんなん、ウチが勝手に言うてるだけ! ほんなら、最後に去年の『TOEIC』の結果を報告して終わろか」
「そうだったねっ、それで、何点だったのかなっ?」
「まぁ、見てくれ、めっちゃ笑えるぞ!!」
も〜っ、変なコトするからじゃんっ
ウチはカラダ張って笑い取ってるからな
「・・・」
「ぎゃはははは、コメントなし、って感じやな」
「・・・」
「これ、来週あたりに会社に報告せなあかんねんけど、ウチ、どうなるんかなぁ・・・」
「ミキ、知らないよっ・・・」
(2008/1/23発行)