「ほんなら一時間目、『オイルについてのエトセトラ』やるぞ」

「うんっ」

「まず、要求性能、ってことやけど、リールの潤滑油にはなにが必要やと思う?」

「え〜っと、・・・最初にお話ししてたよねっ、フリクションの軽減、って言うんだっけ?」

「そうやな、・・・そしたらそのフリクションの軽減を実現するためにはなにが必要?」

「えっ、ちょっと待ってよっ・・・」

「わからんか?番外編でも触れたはずやぞ」

「・・・あっ、粘度でいいんだったっけ?」

「動粘度な、これは『序の巻』でコメントしてるけど、軽負荷ってことを前提にするとまずは動粘度やと思う」

「じゃぁ、オイルが柔らかい方がいい、ってコトなんだねっ」

「実際の動粘度はこれを見てくれる?

ISO VGグレード
動粘度ってある程度幅があるねんぞ
中心から10パーセントくらいなんだねっ

これは『JIS K2001』の抜粋やねんけど、工業用潤滑油の動粘度の指標として『ISO粘度グレード』ってのが規定されてるわ」

「動粘度って、なんだかいっぱいあるんだねっ」 

「この動粘度は数値が小さい方が柔らかい潤滑油、ってことになる、単位は『平方ミリメートル毎秒』か『センチストークス』な」

「どっちの単位も結局は同じ、でいいのっ?」

「そうやな、それで潤滑油の場合は表にもあるように、摂氏40度における動粘度を『ISO粘度グレード』、『ISO VG』として採用してる」

「40度が基準なんだっ」

「うん、温度によって動粘度は変化するから基準を設けたのと違うか?・・・そしたらミキ、温度が上がると動粘度の変化ってどうなると思う?」

「・・・変化って、硬くなるとか柔らかくなる、でいいのっ?」

「それでいいよ」

「それは簡単っ、なんでもそうだけど、温度が高くなると柔らかくなるよっ」

「結局、温度が高くなると動粘度の数字としては小さくなるわ」

「でもっ、40度だからサカナ釣りだとそれ以上の温度になるコトってないんじゃないのっ?」

「逆に低くなることはあるやんね」

「あっ、それはそうだねっ、・・・それじゃぁGamくん、実際にはどれくらいの動粘度がいいのかなっ?やっぱそれって一番大切じゃんっ」

「実はなぁ、リールオイルで動粘度を表示してるのってない、ちゅーかウチは知らん」

「でもっ、一つだけあるじゃないっ、番外編でお話ししてたじゃんっ」

「・・・ミキ、それって『ダイフロイル』のことか?」

「うんっ、そうだよっ」

「あれは25度の動粘度、せやから40度じゃないから比較にならんのやな」

「じゃぁわかんない、ってコト?」

「誰もわからんなんか言うてない、・・・そしたら次、これを見てくれる?

ベアリングと動粘度
一応、ちゃんとした指定があるねんぞ
色々あるんだねっ

今度はボールベアリング、NTNの資料からの抜粋やけど、ベアリングが必要とする潤滑性能を考えると動粘度はこうなる」

「リールのベアリングって玉軸受だからっ、動粘度が13あればいいんだねっ」

「原則的にはそう、でも『ISO粘度グレード』の表を見てくれる?」

「あっ、10の次は15になってるっ・・・」

「ほんなら、どうしたらいいと思う?」

「・・・」

「そんなに悩むなって、難しくない」

「じゃぁ・・・、10でいいのかなっ?」

「その根拠は?」

「動粘度が低い方がフリクションの低減にはいい、って思ったからだけど・・・」

「まぁ、そんなところやね、但しこれも『粘度が低すぎると油膜形成が不十分となり、軸受表面を損傷させます』ってのがベアリングメーカーの言い分やから、動粘度の低い潤滑油はベアリングの寿命が短くなるし、この動粘度13以上ってのも潤滑油を循環させて動作させる場合の話しやと思うから、リールの場合はもっともっと寿命は短くなるような気がする」

「Gamくんって、ベアリングは消耗品、みたいなこと言ってなかったっ?」

「うん、それは言うてたよ、ミネベアのステンレスベアリングあたりやと300円も出せば買える、そんなに高くないからヤル気になれば頻繁に交換できるよね、逆にセラミックベアリングの場合はそーゆーワケにもいかんけど」

「あっ、そうそう、セラミックのベアリングって結構なお値段だもんねっ」

「フルセラは論外としてもハイブリッドでも1コ1500円とかそんなん、コスパ考慮するとそのへんって無駄な投資なんかも知れんなぁ・・・」

「ハイブリッド、って?」

「ほら、フツー釣具屋さんで売ってるセラミックベアリングって玉だけがセラミックやん、それって海外ではハイブリッドって言うらしい」

「ふ〜んっ、なんか、それってGamくんらしくないお話しっ」

「なんで?」

「だって、Gamくんって『まっくすぱふぉ〜まんすっ♪』みたいなコトいつも言ってたじゃんっ、・・・やっぱ、ファイナルダムンを中断してたから考え方変わってきた、みたいなっ?」

「うーん・・・、ちなみにウチはMAXパフォーマンスに音符を付けたことはないぞ」

「あ〜んっ、そんなお話しじゃないよ〜っ、そのっ、コストパフォーマンス、ってお話しだよっ」

「ほら、『飛ばせ、鉄拳!ベアリング編』でもシマノ純正ベアリングをコスパで、MAXパフォーマンスでA-RBを推してたやんね、あのラインナップであの結果やったら今でも判定は変わらん思う」

「う〜んっと、何か、前とはちょっと違うんだよねっ・・・」

「おまえの言うてること意味わからんから次行くわ、動粘度とベアリングの関係の続きやけど、温度による動粘度の変化を考慮してみると・・・

温度と動粘度
今度はどうしてNTNじゃなくってNSKなのっ?
NTNはISO VG 7が表にないねん、ベアリングメーカーの好き嫌いと違うからな

これはNSKの資料やけど、縦軸が動粘度で横軸が温度やねんね、それで赤い線が動粘度13って考えてほしい、この13って数字はあくまで運用される温度環境での動粘度の下限値で、『ISO粘度グレード』のことじゃないから」

「Gamくん、この表だと30度で『VG 10』ってオイルを使えばだいたい14くらいになるし、20度だと『VG 7』が13くらいなんだねっ」

「そしたらミキ、この表から想像できることを答えてくれる?」

「えっ・・・」

「また考え込む・・・、そんなに難しいか?」

「ちょっと待ってよっ・・・」

「それ、最初の方でコメントしたぞ・・・」

「あっ、季節によって『ISO粘度グレード』が違うんだねっ!」

「そう、厳密さを求めて運用するのであれば時期によって潤滑油の『ISO粘度グレード』を適宜変更することになる、真夏にカムルチィ狙う場合と寒い時期にメッキ狙う場合で違う、みたいな・・・」

「じゃぁ、Gamくんはそこまでやってるっ?」

「ウチがそんなめんどくさいことすると思う?」

「はははっ、それもそうだねっ」

「結局は動粘度の違いでパフォーマンスにどれだけの違いが出るか?ってことやん」

「それはやってみないとわからない、みたいなっ・・・」

「そうそう、そんな感じ、気ィ向いたらやるわ」

「そして絶対にやんない、みたいなっ・・・」

「・・・」

「どうしたのかなっ♪」

「こいつ、めっちゃ嬉しそう・・・」

「気のせいだよっ、Gamくんっ♪」

「・・・それでやな、さっきの表で右上のところに『粘度指数80』ってあるやん」

「コレって?」

「潤滑油固有の数字で、温度変化に対する動粘度変化の指標、って言えばいいんかな?」

「???」

「平たく言えばこの数字が大きい潤滑油はグラフの傾斜が緩くなる、ちゅーか、動粘度は対数目盛やから傾斜、ってのは間違えてるかも知れんが・・・」

「じゃぁ、コレが200とか300になると40度と20度ではあんまり変わらない、ってコトでいいんだよねっ?」

「詳しくはこれ見てくれる?

デムナム
これってどんなオイルかなっ?
ダイキンのデムナム、ダイフロイルとは別のフッ素油

この表の『S-20』って潤滑油の粘度指数は150やねんな、上の表やとDの『VG 22』の潤滑油と似たり寄ったりで40度の動粘度がほぼ同じやんね」

「うんっ、そうだねっ」

「で、それぞれの0度の動粘度を比べてみてくれる?」

「上の表だと200くらいで今度の表だと100を超えたあたりになるねっ」

「これが粘度指数の違いによる動粘度の違い、ってことやねんな」

「じゃぁ、Gamくんに質問だけど、最初の方で『リールオイルで動粘度を表示してるのってない』って言ってたじゃんっ、でねっ、さっきまで動粘度のお話しを色々してきたけど、結局、どうすればいいのっ?肝心な動粘度がわかんないんだから何もできないじゃんっ」

「それは簡単、動粘度がわかる潤滑油を買え!ってことやんけ」

「それはそうだけどっ・・・」

「せやから『序の巻』でコメントしたやんね、『自分でできる人でコストパフォーマンスを加味すれば、ホームセンター扱いのケミカル』って、ホムセン扱いの潤滑油ってたいていは動粘度を表示してる」

「そういうコトなんだねっ」

「工業用潤滑油の場合は動粘度を『ISO VG』で表示してるのがほとんどやねんけど、フツーに買うと18リッター缶とかそんなん、小分けなんかして売ってくれへんわ、リール目的で18リットルやと一生どころか曾孫の代でも楽勝で使えるくらいの量になるからな、そう考えるとホムセン扱いのミシン油なんか動粘度だけで言えば最適やと思うけどなぁ・・・」

「それって、Gamくんが使ってるのだよねっ」

「低粘度の潤滑油ってさっきも言うたけどベアリングの寿命は短くなる、でも、これも自分で交換できるヒトにとっては問題ないと思う」

「・・・」

「そしたら動粘度の話しははこれくらいにする、ってちょっと長くなりそうやからひとまず区切って休憩しよか?」

「Gamくん、今回は小出しにしちゃうんだっ」

「ちゅーか、前から言うてるやん、長すぎると誰も読まんようになるから適当なところで区切った方がいい、って・・・」

「そう言えば、『ベアリングについてのエトセトラ』の時もそうだったよねっ」

「あれな、続編やろかな、って思ってるけど」

「今度は何するのかなっ?」

「『セラミック編』やな、フルセラとかハイブリッドとかネタ増えたし、ウチもセラミックの資料だいぶ揃ったから」

「じゃぁみんな、『セラミック編』、お楽しみにしててねっ♪」

「ちょっと待て、それって『オイルについてのエトセトラ』の次回予告と違うやんけ」

「あっ・・・」

「まぁいいわ、次はなにしよ・・・」

(2011/8/7更新)

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